国産の養殖うなぎを丁寧に泥抜きし、ふっくらと蒸し上げた後、3種のタレを使って蒲焼きに。うなぎの頭からエキスを抽出した甘めの自家製タレ付きです。
うなぎの蒲焼きといえば、夏バテ防止に土用の丑の日に食べる方も多いのでは。でも、土用は夏場だけでなく、春土用、秋土用、冬土用と年4回あるのをご存じですか? そもそも土用は、古代中国の五行思想に由来する季節の変わり目のこと。そして、10月下旬~11月上旬に訪れる秋土用こそ、厳しい残暑で溜まった疲れをうなぎで吹き飛ばしてほしいのです!
今回、訪れたのは有田みかんの主要産地として有名な和歌山県有田市。なだらかな山の斜面に有田みかんの段々畑がびっしりと広がります。そんなのどかな風景の中、ひときわ目を引く都会的な建物が川口水産株式会社の本社工場です。
「当初、弊社の初代はみかん農家を営んでおり、後に養鶏業を創業。しかし、今から50年ほど前、和歌山県内でうなぎの稚魚がよく獲れたこともあり養鰻業ブームが起き、弊社もうなぎの養殖を始めるようになりました」と、営業担当の山本秀哉さん。とはいえ、うなぎは当時からとても希少な高級魚。需要がどんどん高まる中で漁獲量は減り続け、今では稚魚の値段が1㎏200~300万円。1匹あたり500~600円の稚魚を手間ひまかけて大きくします。
「養鰻業はものすごく厳しい世界です。基本的に休みがないし、高価な稚魚を大切に育ててもたくさん死ぬ可能性もあります」。
そこで川口水産はうなぎの養殖を一旦ストップし、養鰻業より先に始めたうなぎの蒲焼きの加工業に専念することにしました。現在は宮崎県や鹿児島県、四国などを中心に国産の養殖うなぎを仕入れており、そこには過去の養鰻業で培ったうなぎの質を見極める目利きの技が生かされています。
さて、早速工場へ。にょろにょろと元気に泳ぐうなぎの入った桶を積み上げ、飲めるほど清らかな地下水が天井から降り注ぐ「立て場」へ案内されました。
「うちのモットーは泥臭さを徹底的になくすこと。仕入れたらすぐ工場長以下5人の職人が焼いて食べ、試食検査を行います。そこで全員が認めたものしか加工には回しません」。
毎日のようにうなぎを食べられて、「ちょっとうらやましい…」とも感じましたが、蒲焼きの仕上がりを左右する重大な責任を背負った職人は真剣そのもの。見た目はどうか、皮が反ったり、硬くなったりしていないか、臭みはないかといったところを重点的に、五感をフル活用してチェックします。そこでもし少しでも泥臭さを感じたら、立て場でさらに数日間、地下水をかけ流して泥を抜きます。
そして、生きたままのうなぎを人の手でさばきます。開き方は関西風の腹開き。大きな骨をしっかり取り除くことが大切で、繁忙期には1日に8,000匹もさばくことがあるそうです。続いて白焼きの工程は、うなぎのサイズや肉質を見極めて火加減を調整するのが職人の手腕! この白焼きの仕上がり次第で、蒸し時間も異なります。
「さばき方は関西風ですが、調理には関東風の蒸しの工程が入ります。皮がやわらかければ短めに、硬いものはしっかり長めに蒸し上げてふっくらと理想的な食感にしています。また、蒸すと余分な脂も落ちるので、私たちにはとても大事な工程ですね」と山本さん。
その後はいよいよ焼きですが、川口水産では用途も中身もすべて違う3種類のタレを使って焼いています。「1回目は味付け、2回目は色付け、3回目は照りを出すのが目的です。もしもこの順番を間違えると黒焦げになってしまいます」。
こうして神経をとがらせて完成させた蒲焼きは、冷凍の状態で届きますが、失敗なく簡単に解凍するなら湯煎を。さらにおいしく味わうなら、湯煎後に魚焼きグリルやトースターで軽く炙るのがオススメです。
さて、そのお味は……。身が厚くて、ふっくらとジューシー。焼き目は香ばしく身は口の中でとろけるようで、付属の自家製ダレがよく合います。「うなぎの臭みが苦手」という人にこそ、一度は食べてほしい逸品です。
弊社はうなぎを扱って46年。昔はコープしがのPB(プライベートブランド)も生産していたそうですが、残念ながら今ではどんな商品・包材だったかもわかりません。コープしが様とは一度お付き合いが途絶えた後、2019年に再開。するといきなりうなぎの蒲焼きに1,500本もの注文をいただき、「ケタを間違えているのでは?」と心配になるほどでした。
再会を喜ぶ声を直接コープしが様に届けてくださる組合員様もいて、「弊社の商品に思い入れのある方がたくさんおられるのだ」と感慨深く思いました。
以前食べてくださった方が変わらずおいしい、いや以前よりもおいしくなったといってくださるように、今後も商品づくりをもっと向上させていきたいと思います。
うなぎは豊富な栄養からスタミナや夏バテ予防のイメージがありますね。一般的には晩秋~初冬が脂がのっておいしい旬の時期といわれています。最近では安定した環境で養殖されているため、年間を通じておいしくいただけます。その上、たんぱく質、ビタミンA、ビタミンB1、DHAが多く含まれるので、土用の丑の日以外でも取り入れたい食材です。
特にビタミンAは魚類の中ではトップクラスに含まれていて、目や皮膚の粘膜を健康に保ったり、抵抗力を強める働きがあります。100gあたりで1日に必要なビタミンAの2倍以上の量が含まれていますので、適度においしくいただきましょう。丼で食べることが多いと思いますが、うなぎには食物繊維やビタミンCが含まれていないので、野菜を使った副菜や汁物などと組み合わせるのがおすすめです。カロリーが気になる方はご飯の量を調整しましょう。