近年の研究で、お口の健康状態が体全体の健康に大きく関与することが明らかになりました。「それって、虫歯になって食事しにくくなるから?」いえいえ、そんな簡単なお話ではありません。実はもっと怖いリスクが潜んでいるのです。
そこで歯の衛生月間である6月は、現役の歯科医師にオーラルケア※の大切さとその正しい実践方法についてうかがいました。
※オーラルケアとは…歯と歯茎だけでなく、舌や口腔粘膜も含めたお口全体のケアを指す言葉です
近年の研究で、お口の健康状態が体全体の健康に大きく関与することが明らかになりました。「それって、虫歯になって食事しにくくなるから?」いえいえ、そんな簡単なお話ではありません。実はもっと怖いリスクが潜んでいるのです。
そこで歯の衛生月間である6月は、現役の歯科医師にオーラルケア※の大切さとその正しい実践方法についてうかがいました。
※オーラルケアとは…歯と歯茎だけでなく、舌や口腔粘膜も含めたお口全体のケアを指す言葉です
かねだ歯科矯正歯科 院長
金田 成煥さん
1984(昭和59)年、野洲市に開院。地域に根差したホームドクターとしてわかりやすくやさしい治療を心がけている。また、保育園・小学校・中学校の校医を務め、子どもの歯の健康にも詳しい。
最近の傾向として「虫歯になる人が減ってきた」と教えてくれたのは、野洲市を拠点に40年以上にわたってお口のトラブルと向き合ってきた金田成煥先生。
「特に子どもの虫歯が劇的に減っています。たとえば学校の歯科健診に行くと、昔はクラスに何人も虫歯の子がいました。でも今はクラスに1人いるかどうか。その代わり全年齢で増えているのが歯周病です」
そもそも子どもの虫歯が減少したのは、歯の表面を強化するフッ素入りの歯みがき粉が普及したこと、虫歯予防に対する親の意識が高まったことなどが挙げられます。
しかし歯周病は、歯を支える歯茎やアゴの骨に細菌が入って炎症を引き起こす病気。歯の表面だけでなく、歯と歯茎の境目や歯と歯の隙間までお掃除することが大切です。「歯周病は、プラーク(歯垢)とよばれる生きた細菌のかたまりが歯に付着することで起こります。プラークをそのまま放置しておくと、やがては石灰化して歯石になる。こうなるともう歯ブラシでは取れません」。
歯周病が怖いのは、初期段階では痛みのないまま進行し、やがて歯茎やアゴの骨まで破壊してしまうこと。土台を失った歯は根元からグラついて、虫歯ではないキレイな歯でも抜け落ちてしまうのです。
「それだけではありません。歯周病によって出血した歯茎から細菌が侵入し、血液の流れに乗って心臓へ移動します。そこで動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や狭心症の原因にもなるのです」。
また、脳血管内で歯周病菌が誘発した血栓や動脈硬化が脳梗塞を引き起こしたり、糖尿病を悪化させたりする危険性も指摘されています。お口の健康を守ることは、体の健康を守ることに直結するのです。
普段から金田先生は、患者さんに強く勧めていることがあります。それは、歯みがきをする時に歯ブラシと糸ようじ(デンタルフロス)をセットで行うこと。どんなにきちんと歯ブラシで磨いても、歯と歯の間に溜まった食べカスやプラークまでは落としきれていません。
「まずは糸ようじで歯と歯の間の汚れを浮かし、仕上げに歯ブラシで磨きましょう。『糸ようじより歯間ブラシの方が使いやすい』という人がいますが、歯間ブラシでは歯と歯の間の狭い所まで届きません」。
ドラッグストアなどで安価に販売されているが、奥歯と奥歯の間には使いづらい。
持ち手がしっかりあって奥歯まで届きやすい。初心者に1番おすすめ。
使い捨てで衛生的だが慣れるまでにコツがいる。上級者向け。
「歯ブラシを持つ時は、えんぴつを持つように。ペングリップ(えんぴつ持ち)は余分な力が入らず、細かい作業に向いています。ゴシゴシと強くこすらず、ちょこちょこと1本ずつ磨くイメージです」と、金田先生。また、歯と歯茎の隙間に歯ブラシを斜め45度で当てると、毛先がすっと歯垢の溜まりやすいところまで入ります。
「歯ブラシの硬さはやわらかめ~普通くらい。ヘッドはなるべく小さめで、小回りのきくものがおすすめです。歯みがき粉は5mm~1cm程度出せば十分に磨けますよ」。
とはいえ、歯みがきは少し面倒…。お酒を飲んだ日や疲れている日は、翌朝しっかり磨けば大丈夫…ということにはならないのでしょうか。
「夜、寝る前の歯みがきが最も重要なんですよ。昼間はおしゃべりしたり、ごはんを食べたりすることで唾液が分泌され、多少の食べカスを流してくれます。でも、寝ている間、昼間より唾液は出ませんから、虫歯菌や歯周病菌が活発に動くんです」。
金田先生が推奨する1回当たりの歯みがき時間は5分程度。忙しい朝などは2~3分でもOKだそうです。
「ちなみに歯が最も汚れているのはどこだと思いますか? それは歯の内側。食べる時に人間は、かみながら舌で歯の内側に食べ物を押し付けています。ですから汚れの8割は歯の内側に付着しているのです」。
そこで先生が勧める歯みがきの方法は、手が疲れていないうちにしっかりと上の歯の内側を1分、下の歯の内側を1分磨くこと。そこから上の歯の外側を1分、下の歯の外側を1分。最後に噛み合わせを上下で1分磨けばトータル5分で完了です。
本来なら1日3回、朝・昼・夜の歯みがきがベストですが、昼間は難しい場合もあります。そんな時はマウスウォッシュを代用してもOK。また、キシリトールガムはミュータンス菌(虫歯菌)の活動を抑え、歯垢を剥がれやすくするなど、さまざまな効果を期待できます。
マウスウォッシュや歯ブラシは「くらしのパートナー」に掲載しています。
「普段からのオーラルケアに加えて、定期的なメンテナンスも大切です。どんな方でも生きている限り歯石は付きます。一度付いた歯石は専用の器具でなければ取れません」と金田先生。なるべく3ヵ月~半年に1度、歯科医院での歯石取りをお勧めしています。お口の健康は体の健康とイコールです。生活習慣を見直すように、いつものオーラルケアをぜひこの機会に見直してみてくださいね。