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新春対談

ノーマライゼーションを実現する地域の力ノーマライゼーションを実現する地域の力
城理事長と白石理事長

(左から)
NPO法人滋賀県社会就労事業復興センター 理事長 城 貴志 氏、
生活協同組合コープしが 理事長 白石 一夫

あけましておめでとうございます。

「ノーマライゼーションという言葉すら過去になるような社会を一緒につくりませんか」
そんな呼びかけをする、NPO法人 滋賀県社会就労事業振興センターの理事長・城貴志氏を迎え、障がい者の就労支援を通して考える未来への地域づくりについてお話します。

※ノーマライゼーション:障がいのある人や高齢者といった社会的弱者に対して、特別視せずに誰もが社会の一員と捉える考え方。


福祉作業所と地域をつなぐ「地域ステーション」

白石理事長

生活協同組合コープしが 理事長 白石 一夫

白石理事長

白石 城さんと初めてお会いしたのは2002年。コープしがでは2003年から生協商品の一時預かりや受け渡しの拠点となる「地域ステーション」に取り組んできました。各地域の事業主さんの協力を得て、地域ステーションを増やす中で、福祉作業所(以下、作業所)さんにもお願いしたいと相談しました。

 よく覚えています。地域ステーションのお話は、障がいを持つ方が働く作業所にとって、とても大きな意味を持つことでした。作業所がそこにあったとしても、地域の方とは接点が少ない。コープしがさんの地域ステーションとして組合員のみなさんが商品を取りに来られるなかで、障がいのある方々が日々働いている姿や、パンやクッキーなど作っている商品を直接見て、肌で感じていただくことで、理解が少しずつ広まっていったと感じています。

白石 生協のインフラである地域ステーションが、地域のつながりづくりに役立てばとても嬉しいことです。日常的に関わりがあれば、お互いわかり合えたり認め合ったり、地域で一緒にできることはないかと考えたりもできますよね。

 「障がい者」ではなく、名前と顔が一致する、顔の見える関係ができてこそ初めてつながりができてくる。ステーションはそのきっかけですね。


「チャリティー」ではなく真の仕事に

城理事長

NPO法人 滋賀県社会就労事業振興センター 理事長
城 貴志 氏

NPO法人滋賀県社会就労事業振興センターは1998年10月に社団法人として設立。障がいのある方々の「働くこと」全体をサポートする団体です。

城理事長

NPO法人滋賀県社会就労事業振興センターは、1998年10月に社団法人として設立。障がいのある方々の「働くこと」全体をサポートする団体です。

白石 地域ステーションと合わせて商品を取り扱う話もしたのですが、城さんに「サポートするという考え方はいらないです」と言われたことをよく覚えています。「商品の力を認めてもらい、それを買いたくなるような気持ちになってもらうことをめざしているので、“作業所が作った商品だから”企画するということはいらない」と。

 障がい者が作ったから買うというのは「買ってあげる」ことであり、「かわいそう」「大変」「チャリティー」という募金と同じ感覚になります。そうではなく、「おいしい」や「デザインがいい」というような商品力で買っていただきたい。そうなって初めて障がい者も支えてもらう存在ではなく、自分たちが地域の中で働ける存在になる。私たち作業所自身が商品力を上げていかなければ、いつまでたっても障がい者は守られる存在でしかない。それを打破していきたいという気持ちでした。

白石 共同作業所を身近に感じてもらいたいという発想でしたが、城さんからチャリティーでもないし、支えてもらうことは必要なのだけれども、行きつくところはそこではないと。気づきでした。

 究極は、作業所が社会的な役割を終えて必要なくなる。「昔、障がい者は、作業所で働いていたんだって」となるように。これが本当のノーマルな社会だと思います。
それには私たち作業所自身がもっと努力をしていかなければいけないし、地域の方々に障がいのある方々が働くことの意義を知っていただかなければいけない。
作業所は福祉の専門家ではありますが、商品を開発する、商品力を上げるということは、苦手です。作業所の中だけで考えていては難しいので、コープさんをはじめとするいろいろな地域の団体や企業と一緒に商品開発をしていけるように、地域の中でチームを組んでいきたいです。

白石 共に頑張っていかなければいけませんね。


地域をつくるのはそこにいる一人ひとり

 SDGs達成に向けての動きの中で、リーセントワーク(単に働くだけではなく人間らしい働き方)の追求、ダイバーシティ(多様性)も注目されています。人口が減り労働力人口も減ってきているなかで、持続可能な社会を作っていくためには、いろいろな人が働きやすい社会を作らなければならない。
また、人にとって一番大事なのは、居場所と役割だと思います。人が幸せだとか、明日も頑張ろうと思えるのは、自分の居場所と役割があるから。居場所は家や地域、職場。役割は、仕事です。仕事があるということは、「人から頼りにされる」「自分自身に期待してくれる人がいる」ということで、それはすごく大きなこと。居場所と役割が自然と生まれる地域社会になっていくといいと思っています。

白石 地域社会をどのように形成していくか、人としてどのようにありたいのか。私たち協同組合はやさしさを大切にしたい。職員は仕事をする中でやさしい言葉、心からの笑顔で対応します。それを体感した組合員が別の場面で同じようにそのやさしさを広げる。やさしさは心に余裕を生み、それぞれが地域で自分にできる役割を考えられるようになる。そんな人が増えていくことが地域を変えていくことになるのではと思います。

 そこからですね。自分の地域のことを、他人ごとではなく、自分ごととして考えていくきっかけが大事。いい地域は待っていても作れない。一人ひとりが主体的に、住んでいる街のことを考えないといけない。街づくりの視点を一人でも多くの人に共感してもらい、手を携えていい地域を作っていく。増えていけば、きっといい地域になる。

白石 そうですね。コープしがは今年30周年を迎えるのですが、協同組合として受け継がれてきた大事な考え方を、「みんなごと」という合言葉を共通語として使っていこうとしているところです。他人ごとと目をそらすのではなく、自分ごとのように「みんなごと」として一緒に考えていく組織でありたいと思っています。

 糸賀一雄という「日本の障がい者福祉の父」と呼ばれている方がいます。その方の言葉で「自覚者が責任者」というのがあります。非常に厳しい言葉ですが、自覚しているのであれば、実践していきなさい。自分自身に何ができるか、どのように実践できるかということだと思います。

白石 実践って大事ですね。生協の活動や「自分ごとみんなごと」と自覚したことをきっかけに起こる小さな実践から、たくさんの地域の宝物が生まれるのではないかと思います。これからも一緒に頑張っていきましょう。

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