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ライフジャーナル
気をつけよう高齢者の低栄養

「最近食欲がない…」「何だか元気が出ない…」。
そんな高齢者の方は、栄養がしっかり摂れていない「低栄養」が原因かもしれません。
加齢によって食が細り低栄養に陥ると、今問題になっているロコモティブシンドロームの引き金になることも。
年齢を重ねても、健やかでイキイキとした毎日を送るためには、どんな食事を心掛ければいいのでしょうか。
高齢者にとって必要な栄養素や食事のとり方など、低栄養にならないためのアドバイスを、
栄養士の長岡由里子さんにお話いただきました。

さまざまな原因から空腹感がわいてこない

長岡由里子さん(地域活動栄養士)
組合員活動「料理講習会」の講師ほか、地域では生活習慣病講習会や幼稚園・保育園での食育活動などを行っています。

 「健康寿命」という言葉をご存知ですか? 食事や着替え、入浴などが自分ひとりでできる年齢のことで、男性は71歳、女性は76歳といわれています。どうしても70歳を過ぎる頃になると、足腰が不自由になってきて、今までのように動けなくなってくるんです。そうなると、気持ちも落ち込みますし、活動量も減ってきて、お腹が減らなくなる。長年連れ添った相手と死別したり、知らない土地に引っ越したりという生活環境の変化があると、さみしさからなおさら食欲がわかないというケースもあります。

歯や嚥下の問題でますます食べない生活に

 食べる行為に伴う身体の機能にも変化が現われてきます。まず高齢になると、五感が鈍くなります。味覚や嗅覚が鈍ってくると、おいしいと感じられなくなってきます。それから、歯が弱くなったり、入れ歯になると、噛みづらくなり、唾液の分泌も減ってくるため飲み込みにくさも出てきます。かたいものやパサパサしたものが食べられなくなってくるんです。さらに、胃腸全体の消化能力も落ちてきて、消化液の分泌も弱まってきます。このようなさまざまな身体的変化により、食が細くなったり偏った食生活になり、低栄養になってしまうんです。

低栄養が引き起こすロコモティブシンドローム

 低栄養ということは、栄養失調状態になるということです。総エネルギー量が足りないので活力がなくなり、明らかに見た目も細くなって体重が落ちてきます。肌の張りがなくなり、脱水症状になることも。

 栄養が足りなくなると、筋力や骨、関節も弱ってきます。動きが鈍ってくるので歩行もすり足になり、ちょっとの段差でも転んでしまう。さらに、軽い転倒でも骨が弱っていれば骨折するリスクも高いので、寝たきりになってしまうこともあります。まさに、暮らしの自立度が低下してしまうロコモティブシンドローム(運動器症候群)です。

高齢の方こそ肉料理!水分や野菜もしっかり摂取を

 栄養素はまんべんなく必要ですが、特に高齢の方は筋肉を落とさないように、まずはタンパク質をしっかり摂ることが重要です。肉や魚などの動物性と豆類などの植物性、両方をバランスよく摂るのが理想。それから、上手に代謝するために必要なのがビタミンB群。例えば、ごはんがエネルギーになるには、ビタミンB1を多く含む豚肉のおかずを一緒に食べると効率よく代謝されます。お肉というと焼肉やステーキをイメージする方もいますが、調理次第であっさり料理することもできます。また、赤身の肉や魚には貧血予防になる鉄分も含まれているので、高齢の方にはぜひ積極的に食べて欲しいですね。

 骨粗鬆症の予防には、牛乳や小魚に多いカルシウムも大切。それから、牡蠣や牛肉に含まれる亜鉛が不足するとますます味覚が鈍り、薄味に感じて濃い味付けになってしまいます。そうなると高血圧のリスクも上がりますよね。

 水分と食物繊維も意識してください。高齢になると、身体は乾いていても自覚できず、なかなか水分を摂らないことが多いです。その上、歯が弱ると野菜を敬遠しがちになるので、食物繊維も不足します。高齢の方の便秘の原因ですね。野菜はやわらかく煮たり、すりおろしたり、とろみをつけるなど、食べやすくする工夫をしましょう。

冷凍保存をうまく活用

 ひとり暮らしの食事作りにおすすめなのは、冷凍を活用することです。どんなものでも一人分は作りにくいので、二人分を作り半分は冷凍してください。例えば、魚を二切れ焼いて一切れを冷凍したり、ハンバーグのタネは半分だけ使い、残りは小さく丸めて冷凍し、後日お鍋の具にしたり。かぼちゃやいんげんなどの冷凍野菜も、ちょっと使って残りはまた冷凍できるので便利ですね。

 缶詰やレトルト食品も利用できます。例えば、いわし缶はごはんにのせて青じそやみょうがなどを刻んでどんぶり風に、さんまの蒲焼き缶は細切りにしてきゅうりと和えるとおいしいですよ。調味料も要りませんし、家にある野菜を足すなど少しアレンジすると食べやすくなると思います。

 年配の方ほど、レトルト食品などに抵抗があるようですが、何より食べないことが一番ダメ! 今は本当にいろいろなものが手に入ります。新しいものを探しにいくことは、宝探しのようで楽しいものですよ。こんなものが売っているんだ、ちょっと使ってみようかな……と。食べる楽しみというのはそういうところにもあるような気がします。

少食の人の栄養補給は間食でカバーしましょう

 少食であまり食べられないという人は、おかずは残さずに食べるように心掛けてください。それから、栄養補給としての間食をおすすめします。果物でもいいです。バナナなどは高カロリーですし、やわらかいので食べやすいですよね。あんこのおやつなど、小豆を使ったものもタンパク源になるのでおすすめです。

 もし、間食も難しいということであれば、ココアや抹茶オーレなど、少しカロリーのある飲み物を取り入れてみてください。スティックやパックになった高カロリーのドリンクを利用すれば、手軽にエネルギー補給できますし、喉の渇きも補えます。

お口のケアは若いうちから!

 元気なうちからぜひお願いしたいのは、お口のメンテナンス。若い方でも、歯周病を治療したり、しっかり噛んで食べるようにしたり、意識していると違ってくるはずです。

 また、体が動けるうちにお友達を作ったり、趣味を見つけたり、何か楽しめること、生きがいになることを見つけておくことをおすすめします。例えば、畑をしていて収穫を家族に届けるのが楽しみ、ということでもいいと思うんです。自分に役割があると毎日にハリが出ます。私がしっかりしないといけない、ちゃんと食べてがんばろうという気持ちになるものですよ。

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