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ライフジャーナル
琵琶湖の環境は良くなっているの?

 9月の第1土曜日は、「コープしがびわ湖の日」。
この機会に、琵琶湖の環境に思いをはせてみませんか?
今回は生き物にスポットを当て、特に魚にとって、今、琵琶湖はどうなっているのか、
環境を良くするために何が必要かなどを、琵琶湖博物館の主任学芸員・金尾滋史さんに伺いました。

姿を消しつつある琵琶湖の魚たち

滋賀県立琵琶湖博物館主任学芸員 金尾滋史さん

 琵琶湖は400万年という世界でも有数の歴史を持ち、その長い歴史の中で琵琶湖にしかいない魚類(固有種と言います)が多く生息しています。琵琶湖固有種の魚はニゴロブナやホンモロコ、ビワコオオナマズ、ビワマスなど16種。日本のほかの湖にはほとんど固有種がいないことから、琵琶湖は生物多様性の観点からも重要な湖なのです。しかし、固有種をはじめとする多くの在来の魚は30~40年前に比べて激減しました。一方で、オオクチバスやブルーギルなどの外来生物(もともと琵琶湖にいなかった生物)が増えています。

 このような在来の魚が減ってきた理由は、様々な要因が複合的に絡みあっているという現状があります。

これらの要因はほぼ全て人間活動による影響でもあります。減少要因は各魚種や地域ごとに異なるため、それぞれどのような要因が絡み合っているのかを見極めていく必要があります。そしてそこから様々な保全策を考え実行しています。

数字と経験から見た琵琶湖の環境

 生きもの(すべての生きものではなく、特に歴史的・文化的に人との関わりが深い生きもの)にとって琵琶湖の環境は良くなっているかどうかというと、まだまだ良くなっているとは言い難いです。私たち人間から見ても、その辺りは感覚的に感じるものがあると思います。

 確かに水の透明度や、BOD、CODといった、栄養状態を表すような水質項目は以前に比べて良くなってきました。しかし、琵琶湖での漁に同行すると網にヌルヌルした藻類のようなものが付いていて、漁師さんが「昔はこんなことはなかった」と言っていました。科学的な数字では良くなっているように見えても、長く琵琶湖を見てこられた漁師さんには、疑問に思うこともまだまだあるのです。環境の変化を判断するには、科学の成果も経験からくる感覚もどちらも大切。いろいろな尺度で琵琶湖を見ることが重要です。

はじまっている魚の保全活動

ニゴロブナ

 このような中で、かつての生きものがたくさんいた琵琶湖にしようと、保全・再生にむけた活動も各地で行われるようになってきました。琵琶湖周辺の水田地帯では、水路に魚道を設置して田んぼへフナやナマズが上れるよう整備をした地域もありますし、外来魚を釣って駆除していこうという活動もあります。いろいろな川や水路で魚つかみを楽しみ、その地域にどんな魚がいるのかを子どもたちに知ってもらう観察会なども県内各地で開催されています。

 このような活動の背景には、昔、魚つかみなどを通じて生きものと親しんだ経験をもつ地域の方々がおられます。地域のみなさんのおかげで、少しずつですが、かつての生きもの賑わいが戻っている場所もあります。

大切にしたいのは琵琶湖が生みだした生態系と文化

ビワコオオナマズ
写真提供:滋賀県立琵琶湖博物館

 琵琶湖の魚は固有種も含め、産卵期になると湖岸のヨシ原や岩場、川や田んぼにやってきます。沖合で産卵をする魚はいません。そのため琵琶湖の湖岸域は魚と人が接することのできる場所になっていました。かつて、琵琶湖近くの田んぼや水路では、子どもたちがフナ、ナマズをつかまえて遊んでいたそうです。また、川や琵琶湖岸ではコアユやシジミなどをつかみ、それらは夕食として食卓にあがっていました。生きものをつかまえる道具や方法も地域によって様々だったそうです。

 滋賀県の伝統食でもあるふなずしは、産卵期にヨシ原や内湖に集まる固有種のニゴロブナを漁獲して作ります。同様に、モロコやビワマスなど湖魚料理の代表である魚は琵琶湖固有種であることが多いのです。

 琵琶湖には長い歴史の中で生まれた固有種を含め、様々な魚がいることで、琵琶湖地域独特の水辺遊びや食、漁といった人との関わりが生まれ、文化として作り上げられていきました。しかし、魚が減ってきたことで、私たち人間との関わりも次第に薄れていってしまったのです。

琵琶湖の生きものを守っていくために

 今日の保全・再生活動が広まっていったおかげで、少しずつ魚は戻ってきました。しかし、それだけでは魚と人との関わりまでは復活しません。関わりがなくなると、琵琶湖への意識も遠くなるので、生きもののにぎわいを取り戻すのと同じくらい、生きものと人との関わりを再生することが重要ではないかと考えています。

 このような歴史に支えられた生態系と文化は、長い目で見れば常に変わり続けています。中でも特に琵琶湖地域の生きものの様相が変わったのは、高度経済成長期を含めた琵琶湖総合開発以降だと言われています。とは言え、今の利便性をすべて捨てましょうということではなく、現在の状態を保ちながらでもできることはあります。

 私自身は専門家として、特に琵琶湖や川にすむ魚のくらし方や分布などを調べ、絶滅のおそれのある魚たちをどうしたら保全できるのかを研究しています。それと同時に地域の方々と一緒に減ってきた魚を保全していく取り組みを行っています。

 博物館でも様々な展示や活動を通じて皆さんに琵琶湖の環境を知ってもらうことができますので、ぜひ積極的に活用していただければと思います。

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