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ライフジャーナル
くらしのなかのニオイと香り

大掃除を終えたあとは、家中ピカピカで気持ちがいいもの。さらに、気になるニオイを和らげて、良い香りが漂っていれば一層「心地良いわが家」に。
今回は、「良い香り」と気になる「いやなニオイ」についてご紹介します。エステー株式会社の船橋一良さんと、山岸千恵さんにニオイについて教えていただきました。

「良い香り」の歴史

【右】船橋 一良さん
エステー株式会社 研究グループ
【左】山岸 千恵さん
エステー株式会社 マーケティンググループ

 「香り」と聞いて、何が頭に浮かびますか? 桜やキンモクセイ、バラなど花の香りはもちろん、人工的に開発された、お香や香水など、香りを楽しむものは世の中にたくさんあります。最近では植物から抽出した天然の香りを楽しめるアロマオイル(精油)も浸透し、香りを楽しむという行為が、より手軽で日常的なものになりました。

 ですが、香り文化の歴史は古く、世界では古代ローマの時代から、日本では奈良時代から、ごく一部ではありますが人は香りを生活に取り入れていたようです。奈良時代に発行された『日本書紀』にも、お香のはじまりについて触れられています。当時のお香とは、「白檀」や「沈香」などの香木と呼ばれるもの。熱すると非常に良い香りがする木材ですが、白檀は熱を加えなくても香り、線香や仏像、数珠など仏具の原料として今も利用されています。

 また、茶道や華道と同じように、日本には香道と呼ばれる、香りを楽しむ文化があり、特に平安時代には、平安貴族たちの遊びの一つとなっていました。ちなみに、香りを「嗅ぐ」のではなく、「聞く」と言い、楽しむことを「聞香」と言います。

 このように数千年の昔から、日本人は香りに親しんできました。楽しむだけでなく、魔除けやお守りという意味もあった「香りを身に付ける」という習慣も、現代ではその時々のシチュエーションや気分に合わせて変えられる、とても身近な生活アイテムになりました。

「鼻が慣れる」に気を付けて

 五感の一つである「嗅覚」では、良い香りだけでなく不快な臭いも感じ取ります。感覚の問題なので人によってそれぞれ、特に嗅覚は個人差が大きいと言われていますが、一般的に“いやなニオイ”と呼ばれるものはあります。

 そして人の嗅覚は鋭く、空気中のわずかな物質も感知しますが、たとえ“いやなニオイ”であっても、同じ臭いを嗅ぎ続けていると、あまり感じなくなるという特徴も持っています。これが嗅覚疲労、すなわち「鼻が慣れる」ということです。

 そこで気を付けたいのが、自分は気にならないけれど、ほかの人は気になる臭いかも知れない、ということ。たとえばペットやタバコのニオイは生活の一部ですから鼻が慣れてしまい、自分では気付かないもの。来客を気持ち良く迎えるためにも、エチケットとして少し注意しておきたいものです。

 良い香りを楽しむ際も、来客時のリビングには華やかな香りでおもてなしを、寝室は心やすらぐ香りを、と場所や状況によって変えると、いつでも新鮮な気分で過ごすことができます。

人の嗅覚・いやなニオイについて

 人は、普段どんな香りや臭いを感じているのでしょうか。

  • おいしそうな香り
    →生きていくうえで大事な食べ物を判断しています。
  • 腐ったニオイ
    →身体に害があるものと判断して、遠ざかろうとします。
  • なんとも不思議なニオイ
    →今まで嗅いだ事のないニオイは警戒します。

 嗅覚は、生き物が生きていく上でとても大事な感覚です。いい香りやいやなニオイは、何百何千という香りの成分が独特のバランスで混ざっています。嗅覚は、その混ざった香りを鼻の中に何百種類あるといわれるセンサーで感じ取り、その信号を脳で判断しています。

いやなニオイの正体

 「暮らしの中でニオイの気になる場所」のアンケートでは、上位に「トイレ」「台所のゴミ箱近くや排水口」「下駄箱周り」が来ます。

 生活の衛生環境はどんどん良くなり、トイレや生ごみもきちんと処理されているにもかかわらず、いわゆる家のニオイはなくなっていません。最近、複合臭としみつき臭がその主な原因であることがわかってきました。

【複合臭】
ある特定の組み合わせでニオイが混じることで、もともとは良い匂いのものでも、気になるニオイに変わってしまったもの。

【しみつき臭】
ニオイが壁や天井に染み付き、それがまた空気中に出る時に、成分のバランスが崩れて気になるニオイになったもの。

いやなニオイの撃退法は?

化学的消臭法

悪臭成分を化学反応によってニオイのない成分に変えてしまう方法。身近には、お茶のポリフェノールや重曹、クエン酸などがそのような効果を持ちます。

物理的消臭法

冷蔵庫脱臭剤に良く使われる備長炭、活性炭などがこの作用を持ちます。いろいろな悪臭成分を取り込んで放しません。

感覚的消臭法

いい香りでいやなニオイを感じなくする方法。昔は、強い香りで悪臭を感じなくするマスキング法が使われていましたが、強い香りは好き嫌いが分かれるため、今では、悪臭を良い香りの一部として取り込み、良い香りに変えてしまうペアリング法が主流になっています。

生物的消臭法

トイレのニオイや、生ごみ臭、体臭などは、主に雑菌が生み出すニオイです。そこで、悪臭を作り出す雑菌の繁殖を抑えることで悪臭の発生を抑える方法です。例えば①除菌剤を使う②悪臭を作る悪玉菌を、無害の菌で抑える③悪臭の原因物質を食べて分解する善玉菌を使う。

 多くの消臭剤は、これらの方法をあわせて使うことで、消臭効果を上げています。特にペアリング法はいわゆる悪臭から複合臭、しみつき悪臭まで広く効果を発揮できる方法です。

表情豊かな香り

 人は香りによって、無意識にその場のイメージや気持ちに影響されていると言われています。場所や状況によって、自在に消臭や脱臭、香りを変えることができる今、ファッションを楽しむように香りを選んで、空間を彩ってみませんか。

 香りの好みは様々なので、まずは自分のお気に入りの香りをみつけてください。好きな香りで部屋が満たされると、ゆったりした気持ちになり、リフレッシュに最適。香りの上級者なら、部屋の用途や気候によって香りを変えてみては。わが家が心地良いと、毎日の生活にもハリが出て、生き生きと過ごせそうです。

 来客時は主張しすぎない柔らかな香りを用意して、目に見えないからこそ、さりげないおもてなしでお迎えしましょう

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